競馬日記 桃源郷 UMA パラダイス

1990年代ダビスタブームを過ごし、2021年のウマ娘ブームで競馬熱が開花した人の日記です。自らの所感と知識をまとめるためにロング版twitter感覚で逐次投稿します。内容は全て執筆当時の認識であり後年の観点からは誤認もあるかと思います。(発見した場合、修正でなく追記を行います)

血統理論の原則がスッと入ります。堀田茂「競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門 (星海社新書)」

 キャロットクラブの会報誌にも記事を掲載している獣医師による血統論本です。タイトルの印象よりずっとエッセイ的でリラックスして読めます。

 現状の競馬産業の血統理論は一般に博物学的過ぎ、科学的とは言い難いもの。メンデルの法則時代ですらない。その様態を主軸に解説しています。例えば最近導入された種牡馬ブリックスアンドモルタルはストームバード3x3の配合のため、次世代は自動的にストームバード4x4に。それが新たな問題にはならない理由も理解できます。

 現在実行されている配合理論に関しての見解は株価美人コンテストの例えを思い起こします。「真の血統馬」とマーケットで高額となる血統馬には恐らくいくらかの乖離があります。「奇跡の血量」4x3も狙ってそうするものではなく、単に活躍馬同士かつ近親過ぎない距離の限界値としての経験則としての要素が大きいと推測されています。この考え方は自分の感覚とも意を同じくするものがあり、後押しを受けた感覚です。

 危険なほどのクロスが組まれた配合の数>実際に生まれる数>競走馬になる数>実際にレースに現れる数で、このステージ間で淘汰された結果が見えているにすぎないのです。

 しかしながら、競馬の世界とくに牡馬は詰まる所G1ホースの種牡馬1頭を作るために年間生産数何千頭かを生贄にするシステムであるため「健全性」の重要度はそこまで高いのだろうか?という印象もあります。「遺伝病は年齢によって発症・悪化するもので、顕在化していないままその要素が継承され続けている可能性がある」という意見も、競走馬である限りはレースによる淘汰でその前に生命を失うものが大多数のため小さな問題であると考えました。

 たとえば中央競馬で遺伝性の病気による斃死や競走能力喪失は滅多にありません。現代競馬究極のインクロス3x2であるエネイブルですら、サラブレッド品種の成立経緯を推測すると、こういったものを執拗に繰り返さなければ革新は起きないのではないかとも思います。

 この本の明快さと曖昧な感覚性両方をきっかけに、競走能力は毛色のように発生原理を遺伝子からの直結で確定できない点が血統論の難解さを高めているという認識を改めて強いものとしました。

特にエッセイ性が強くも興味深かった要素:エピジェネティクス

 エピジェネティクス的な同一遺伝子ままでも起こる作動スイッチのオンオフ・高すぎる主張力・ベストトゥベストの弊害の推測。これは表現が面白くかつ納得できるものです。「松茸とトリュフと松阪牛とフォアグラとイクラとキャビアを全部一緒に口の中に放り込んだら、どんな味がするのでしょう」

特にエッセイ性が強くも興味深かった要素:ミトコンドリアDNA

 牝系のミトコンドリアDNAに関する記述はエッセイ性が強い中でも最も興味深い観点でした。牝系の重要性に関しては、ここ数年ノーザンファームの海外セリでの購買行動*1やウインドインハーヘアの血*2で注目度高まって、ちょうど時代の変わり目を予見した印象です。

 これに関しては、まず前提としてジャパンスタッドブックインターナショナルWebサイト掲載のコラムを読んでおくと理解が一際早いものとなると思います。
jairs.jp

ミトコンドリアDNAと血統論に関する私的見解のメモ

 ミトコンドリアDNAに関しては、自分の手元の未整理のメモにこのようなものがあります。理論的飛躍が気になりつつも、否定するのは難しい要素です。

「競馬はATP代謝である」
この認識は「血統差は牝系で決まる」に繋がる論理。


しかしながら
・ATP代謝はミトコンドリアで行われる。
・ミトコンドリアDNAは母からしか遺伝しない。(この2つは合っている)
→牝系で絶対的走行能力は決まる。(ここを連結するのが理論的に無理があるような‥‥)


この思考からの流れで、マイルG1を2勝のインディチャンプがいかにも長距離タイプのステイゴールド産駒である事への驚きと同時に、母ウィルパワーがG1安田記念優勝馬リアルインパクトの上と考えた際の妥当感が同時に現れます。

参考にできる要素が恐らく大も、現状の自分の知識では完全理解できない専門的解説動画

馬学講座ホースアカデミー11 1.サラブレッドの血統

 エアグルーヴ持ちの異様な好成績率と、非常に古い世代でもスペシャル・リサデルの強さは興味深い。本書で暗に批判されている非科学的血統通の元調教師は恐らく白井寿昭だと思うのですが、この方がしばしば強調するスペシャル・リサデル持ちの強さは否定しがたい。(ただしこれの効果の有無を断言するのは事実上不可能だと思われる)

 私的持論「ダンジグ・デインヒルのクロスに行き過ぎはない」(まずは何が何でもハイレベルのスピード能力を持たせなければという考え方)に関して、SNPマーカー解析の結果デインヒルが極端に乖離した位置にある(≒特異な存在である)点が気になります。

*1:欧米の重賞勝ちすなわち日本においては異系のエリート繁殖牝馬の大量購入。

*2:2024年世代は父ダンスインザダーク・母ウインドインハーヘアの繁殖牝馬ランズエッジを祖母に持つ馬3頭、レガレイラがG1ホープフルステークス優勝・ステレンボッシュがG1桜花賞優勝・アーバンシックがG3京成杯2着で皐月賞4着と途轍もない成績をあげました。